アイニコグループ株式会社は、 奈良県を中心に展開する住宅会社で、「笑顔を創造し続けること」を経営理念に掲げている。注文住宅・リフォーム・不動産業を中心に、保育・介護・民泊といった多角的な事業に取り組んでおり、人材育成にも力を入れている。 今回は、同社の代表である田尻忠義氏(代表取締役)に、 取り組みや販売における考え方、経営のモットーなどについてお聞きした。
―まず、御社の特徴をお伺いさせてください。
弊社は注文住宅から事業を始め、介護や民泊などさまざまな取り組みを行っており、現在では八つの事業を展開しています。2007年に創業し、現在までに売り上げが7倍にまで成長しましたが、転換期は採用にあります。
2014年に新卒採用を開始して以来、売り上げは大きく伸びました。というのも、新卒採用を軸に据え、教育体制の整備こそが事業において最も重要だと考え、強化してきたからです。その結果、人件費と売り上げの相関が明確になり、人材への投資が成果を上げ、直近でも大きく売り上げを伸ばすことができました。
もともと注文住宅は、一つの邸宅に10人以上の関与者がおり、非常に難易度の高いビジネスです。その観点で言えば、注文住宅で鍛え上げられたメンバーは非常に優秀であり、住宅事業以外の分野でも活躍できたことが、多角化の成長要因にもなっています。
―素晴らしい実績ですね。このような「人に投資をする」という考え方に至った経緯はあるのでしょうか?
住宅業界はもともとクレームの多い産業です。私は大工から元請けに転身しましたが、下請け時代にメーカーに対するクレームで非常に苦しんだことがきっかけです。私自身が元請けになったときに、住宅会社として「クレーム産業を変えていく」という強い思いを持っており、現在はこの理念に共感して入社したメンバーが主体になっています。会社として一丸となり、クレーム産業を変えていくことに注力しています。
弊社では、いわゆるクレームのことを「ラブコール」と呼んでおり、我々に非がなかったとしても、クレームになれば喜んでもらうと決めています。なぜ「ラブコール」と表現するかというと、1件のクレームにはその後ろに100件以上の不満が潜んでいると考えているからです。そう考えると、クレームをいただけるということは、改善するチャンスをいただいているということですので、そのように表現しています。その結果、弊社ではこれまで一度も施主様との裁判に発展したことはありません。これらは理念に基づいた教育によるものですが、このクレーム産業をCS(顧客満足)によって変えていくという理念がずれてしまうと、私が人生をかけて取り組んでいることが嘘になってしまうので、社員への教育を徹底して行っています。
ですから、先ほどの人材に投資をする観点と照らし合わせると、CSだけでなくES(社員満足)というものが事業において最も重要になります。私は宗教の教祖になりたいわけではなく、その理念という経典を広げたいと考えています。今取り組んでいる「仕組み化」などに関しては、それらを目的とした手段でしかありません。
―素晴らしいですね。では、業務改善に関して「仕組み化」という言葉がありましたが、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
あくまで目的はESとCSですから、そのための手段として、「仕組み化」を推進しているのですが、まずは業務フローを整備することから始まります。そしてタスク管理を行い、チェックシートを踏まえてエラーを積み上げていきます。そもそもエラーが起きるのは、人ではなく、仕組みに問題があると思っています。そのような中で、人のせいにしてしまうと個人を責めることになり、問題の本質的な解決につながりません。そのため、我々はまず動画で残すことで、マニュアル化を徹底しています。
施工に関することだけではなく、例えばコーヒーメーカーの使い方など、さまざまなことも動画として残しています。累積で見ると、動画の数は4万本以上にのぼります。一般的にマニュアルといえば、分厚いガイドブックのようなものになりますが、こういったマニュアルの場合、完成度にこだわっている傾向があるように思います。しかし、完成度などはどうでもいいのです。ひたすら動画に残し、その動画がわかりづらければ、さらに別の動画を作っていくことが大事なのです。
また、住宅業界は、工程が非常に長いという特性があります。そのため、お客様との出会いから引き渡しまで効果的・効率的な工程を踏めているのかという観点において、常に生産性を意識して改善をすることが重要になります。現在では、現場監督が月30件の施工管理をするのが当たり前の状況となっています。設計においても、日々の活動においても、案件の進捗会議が不要になり、進捗状況の確認はパソコンを見れば1分以内に完了します。
こうした取り組みを通じて、私たちが常に意識しているのは「利益生産性」です。
これは、利益額を時間で割ることで算出される指標であり、1時間あたりにどれだけの利益を生み出しているかをKPIにすることが、非常に重要だと考えています。この指標において、弊社独自のシステムにより、一般的な水準の倍にまで高めることが可能であり、非常に効率的な施工管理ができています。これらを社員や顧客に還元しているため、特に社員の観点で言えば、コロナ以降3回ベースアップをできているのですが、これらは全てこの「利益生産性」の管理によるものです。
―ありがとうございます。ESとCSに対する取り組みが、事業の成長と相関しているのは非常に素晴らしいことですね。
やはり、私たちはエリアビジネスを展開している以上、生活をしている中で、胸を張れない仕事をするのはとても悲しいことだと考えています。自分の影響力で何ができるのかを考えたとき、多少の価値観の違いはあっても、会社の目的である企業理念というゴールは同じです。アプローチの仕方は人それぞれ違っていても、社長・社員といった上下関係ではなく、社長は単なる決断と承認の責任を負っているだけで、同等な立場だと考えています。
ーありがとうございます。多角化という観点でも、八つの事業を立ち上げていらっしゃいますが、どのような経緯があるのでしょうか。
当初は、住宅や不動産など暮らしに関わる分野から事業を進めていましたが、社員が子育てをしていたことをきっかけに、保育園事業を立ち上げました。さらに、「顧客の生活全体を見る」という視点から、介護の分野へと事業を広げてきました。奈良を中心に保育園や工務店を展開してきましたが、「顧客の笑顔を創造する」という観点で考えると、今後は介護も不可欠な要素になってくると感じ、介護事業を始めました。このように、CSやESにより、あくまで「より多くの笑顔を創造する」という理念実現のために、今後も事業の多角化を進めていきます。
ーありがとうございます。最後に、今後の事業展望についてお伺いさせてください。
今後は、各事業部ごとに3カ年計画や5カ年計画を作っていますので、それらを踏まえて、より多くの笑顔を創造することを事業の目的として、事業拡大を進めていきます。単なる売上至上主義では、いずれ現場に歪みや問題として現れてしまいます。そうした状況を避けるためにも、徹底した品質管理を行い、マニュアルの整備から検査項目の策定に至るまで、着実に強化していく方針です。
ー本日はありがとうございました。
アイニコグループ株式会社
アイニコグループ株式会社は、 奈良県を中心に展開する住宅会社で、「笑顔を創造し続けること」を経営理念に掲げている。注文住宅・リフォーム・不動産業を中心に、保育・介護・民泊といった多角的な事業に取り組んでおり、人材育成にも力を入れている。