今回は、携帯IDを活用し、来場コストを4分の1に抑えることに成功した東京都A社について見ていきたい。A社の概要は下記となっている。

では本日の目次を見ていこう。
当初の課題
下の図はA社が抱えていた課題と目標、ギャップを埋めるための対策を記した図である。順に説明していこう。

もともとA社では総合展示場に多くモデルハウスを出展していることもあり、テレビCMを中心に集客を行っていた。しかし、テレビ広告は近年若い世代を中心に広告効率が悪化しており、A社でも費用対効果が合わない状況が続いていた。
こういった状況から、広告の費用対効果を高めたいと考え、携帯IDを活用した効率的な集客体制を構築することに至ったのである。
話を進める前に、そもそも「携帯ID広告」とは何かという点について触れていこう。下の図をご覧いただきたい。

携帯ID広告は、日本中の携帯電話IDと連携しており、全国9,000万人以上の携帯電話に保存されている年収、職業、住所、閲覧履歴や関心事などを把握できる。
そのため、「ターゲットを絞って広告を配信する」や「認知広告の効果性を把握する」などさまざまな活用が可能となる。では、A社はこのツールを用いて、どのように集客効率を高めたのだろうか。
A社の取り組み
①ターゲットのセグメント
一つ目が、ターゲットのセグメントである。
お伝えしたように、携帯ID広告は日本人口のほとんどの個人情報を把握することができる。下の図にあるように、「経営者向けの広告」「主婦向けの広告」「公務員向けの広告」といった形で、よりターゲットに合った形で広告を配信することが可能となる。

下の図は、A社が実際に配信している広告だ。このように、ターゲットに合わせて全く色合いやテイストの違う広告を配信することによって、広告の効果を高めることに成功した。

そもそも従来の広告は、「誰にどう発信するか」という観点は制限ができない。テレビCMにおいても同様である。
年収や年齢、性別などで狙った配信はできず、チラシやラジオなども同様だ(一部のWEB広告はできるが、近々規制の問題で困難になる)。しかし、携帯ID広告を活用すれば、この「誰に広告を発信するか」という観点において、非常に精度の高いアプローチが可能となる。

テレビCMは、ターゲットを狙い撃ちすることはできないが、一方でマス媒体も近年はネットサービスに変化している。
下の図は、民放を見ることができるTVerという有料サービスであるが、このようなネットサービス型のテレビCMであれば、ターゲットに決め打ちで広告を配信することが可能となる。

TVerは、登録者が4500万人と日本人口の1/3を占め、40代以下の会員が多い傾向にある。YouTubeと比較して広告効果が4倍以上と言われており、今非常に効果性の高い媒体だ。
テレビCMと同様、ラジオにおいてもネットサービス化されている。その代表がSpotifyだ。

Spotifyは音楽配信サービスだが、日本ではラジオとして使用されているケースも多く見られる。そのため、効果性が見えない従来のラジオではなく、Spotify経由で広告を配信することで、狙い撃ち広告が可能となる。
②獲得から認知
二つ目が、「獲得から認知」である。
下の図をご覧いただきたい。住宅業界の集客に関しては、「獲得広告」と「認知広告」がある。獲得広告とは、チラシやホームページ(の資料請求)などのように、「名簿を取る」ことを目的にした広告である。

一方で、認知広告とはテレビCMやラジオCMなど、直接的な反響につながらない広告を指す。直接的な反響がなくとも、ボディーブローのように効いてくるため、最終的には獲得広告よりも効果が高い傾向にある。
また、下の図は「ダブルジョパティの法則」と呼ばれるもので、「売上と認知度は相関がある」ということが学説的にも証明されている。

しかし、「認知広告は費用対効果が見えないからやりたくない・・・」というのが経営者の本音ではないだろうか。だが、後述する「広告計測ツール(beacon)」用いることで、認知広告の費用対効果を明確にすることが可能となる。

ここで、広告計測ツール(beacon)について説明する。
beaconは小型の設置型機材で、店舗に配置すると半径4m以内に入った来場者の携帯IDから「どの広告を見て来場したのか」を計測できる。このbeaconをモデルハウスや店舗に設置すれば、今まで計測が困難であった認知広告の費用対効果を検証することが可能となる。

また、A社では大手回転寿司チェーンのスシローと提携し、店舗内の液晶に広告を配信する取り組みを行った。スシロー店舗の液晶は、待合室で予約番号が表示される仕組みのため、多くの方が目にする。

このスシロー広告も、先ほどの手法を活用することで「スシローの広告を見て来場したユーザーがどの程度いるか」を計測することができ、非常に効果的なアプローチが可能となる。

なお、スシローに関しては全国に店舗を展開しているため、A社は各エリアで効果的にサイネージ(電子ディスプレイを使った広告表示システム)を活用した集客を行い、新たな層を獲得することに成功している。

③定量的な分析
三つ目が、定量的な分析である。
beaconによって反響が数値化される点はお伝えした通りだが、この特性を活かすことでさまざまな分析が可能となる。例えば下の図は、モデルハウスで来場者がどのように行動したかを「来場者の行動動線」として示したものである。

この情報をもとに、「どのような場所にどのようなブースを設置するか」「どのようなしつらえを設置するか」といった改善を行うことができる。
また、下の図をご覧いただきたい。下の図のように、「どの商圏から自社や競合に訪問しているか」を明確にすることができる。

図で言えば、「川崎市民が最もD社に訪問している」「横浜市民が最もC社に訪問している」といったことが分かる。
これにより、「自社にとっての真の競合」を把握することが可能となる。その上で、競合を意識した広告を配信することで、A社の集客は大幅に増加する結果となった。
このような取り組みを行うことで、A社は広告効率を4倍まで高めることに成功した。
本日のまとめ
改めて、本日のまとめを示そう。
A社はテレビCMの効果性が年々低下しており、打開策を模索していた。
新たな施策として、より明確なターゲット設計ができる「携帯ID」を活用した集客を実施した。
合わせてスシローなどの液晶広告を活用し、新たな媒体戦略を取り入れた。
結果、広告費を増やすこと無く来場コストを1/4まで抑えることに成功した。
以上、今回はA社の集客効率についての事例を見てきた。今後、テレビCMの効果性は低下していくとみられる。このタイミングで、テレビCMに関する改善を取り組んでいこう。
