ブランディングというテーマは多くの会社にとって関心が高い一方で、なかなか取り組みのイメージがつかず、難航しているケースが多いように思います。同時に、住宅業界においてはブランディングの成功事例が少なく、取り組みの参考になる情報が少ないことも事実です。
そんな中で、ブランディングが一体どういったもので、どのような効果があるのか、について皆様の一助となるべくご紹介していきたいと思います。
こちらはある営業部長のお悩みです。
最近よく聞くブランディング。
なんだかふわっとしてるんだよな・・・。
ルイヴィトンの話が良くでるが、うちはそんな高級路線じゃないぞ。
だからそもそもブランディングっていらないんじゃないか?
でも会社のロゴとかパンフレットとかホームページとか刷新したい。
これってブランディングじゃないの?
ブランディングってなんだ?
多くの住宅会社が、ある程度の社歴を重ねた中で「会社自体を一新したい」と考えているのではないでしょうか。一方で、会社ロゴやパンフレットを変えただけで果たしてブランディングなのか、とお考えになることもあると思います。
今回は、このようなお悩みについてどのように対処すべきかをお伝えします。
では本日の目次をお示しいたします。
目次
ブランディングとは何か?
まず、下の図をご覧ください。2つの財布があります。それぞれいくらで買いますか。その理由は何でしょうか。おそらく多くの方がAの財布により高い金額を付けるのではないでしょうか。
素材やデザインが同じでも、ロゴがあるだけで金額が上がる。これはどのようなことなのでしょうか。次の図をご覧ください。同じような原価であっても、ブランドによって金額が上がることがあります。これを「価格プレミアム」と言います。この価格プレミアムを作り上げることが、まさにブランディングにおいて重要になります。
では、ブランドを作り上げるには何が必要でしょうか。下の図にあるように、ある特定のブランドにおいて、「認知度」と「好感度」を獲得することが重要です。つまり、その商品のブランドを知っているかどうか、そしてそのブランドを好きかどうか、の掛け合わせでブランドの評価が決まります。
仮に、「好きだけど知らない」あるいは「知ってるけど好きじゃない」となるとブランドは不成立となり、価格プレミアムを作り上げることはできません。
この考え方をまとめると次の図のようになります。ブランドAは認知度も好感度も高く、非常に高い契約率を確保できます。また、ブランドBのように認知度がなくても好感度が高ければ、それなりの契約率を確保できます。
しかしながら、ブランドCのように「全く知らない」、そして「好きになれない」ブランドであれば、非常に低い契約率になります。ここでは契約率で説明しましたが、当然ながら来場数や反響率などさまざまな面で大きく数値が変化します。
実際に、「認知度と売り上げ」に関連性があることを説いたデータが下の図になります。この図は、ダブルジョパディの法則と言われるデータです。このデータによると、「商圏内の認知度と購入頻度」が非常に高い相関関係にあることが分かります。
また、「好感度と売り上げ」の関連性で言えば、感性消費という考え方があります。感性消費は、好きか嫌いか(情緒的価値)で判断する消費です。一方の理性消費は、良いか悪いか(機能的価値)で判断する消費です。近年では、購買主導権を主婦が握っていると言われますが、女性においては感性消費を行う傾向が強いため、好感度を高めることが売り上げと関係していることがお分かりでしょう。
ブランディングの多岐にわたる副次効果
また、ブランドには価格プレミアム以外にも下の図のような副次効果があります。このような効果を狙い、着実に自社のブランドにおける認知度と好感度を獲得することが非常に重要です。
また、広告予算について補足をすると、一般的な広告宣伝費は経費(掛け捨て)であり、言わばPLの領域になります。一方で、ブランディングは資産(積み上げ)であり、BSの領域になります。
下の図は代表的な企業のブランド価値を表したものですが、このように、ブランドが資産として企業価値を高めているということも非常に重要な観点です。
また、ブランドにおいては、企業ブランド・事業ブランド・商品ブランドがあることを押さえましょう。それぞれにおいて、どのブランドを強化するのかをまず決めることが非常に重要です。
中小企業にこそ必要な「ブランディング」
ブランディングについて簡単に説明しましたが、一部の方は「中小企業には無関係だ」と感じているのではないでしょうか。ブランディングの重要性を説明する際、下の図のように「高級ブランドのみの話ではないのか」とか、「広告宣伝費が膨大にかかる」という言葉を耳にします。
しかしながら、ブランディングにおいて世界的に成功しているスターバックスは、高級ブランドではなく、広告宣伝費はほぼゼロです。住宅業界においても、ローコスト住宅でブランディングに成功している、あるいは広告宣伝費を一切かけずに成功している企業も多く存在します。
では、スターバックスのように広告費用を使わずにブランディングに成功するにはどうすればいいのでしょうか。下の図をご覧ください。こちらは、スターバックスのブランディングにおける取り組みをまとめたものです。端的に言えば、外観・店内・オーダー・空間、その他全ての顧客接点において「一貫性」を持って事業を展開しているところが特徴的です。
ブランディングの最も重要なポイントは、顧客に自社ブランドを「想起」してもらうことにあります。ブランドを見て想起してもらうことを「助成想起」、検討時に想起してもらうことを「純粋想起」と言います。このように顧客に想起してもらうために、一貫性を維持した事業展開が重要になるのです。
では、一貫性を保持するために何が必要でしょうか。当然ながら、ロゴやホームページ・チラシ・メルマガ・店舗・設えなど、顧客接点の全てにおいて一貫性を持たせた仕組みを構築することが重要です。これを「外向きのブランディング」と言います。
しかし、それだけでは十分でありません。この外向きのブランディングを展開するのは企業であり、社員です。ですから、理念や哲学などを含め、社員が持っているブランドに対する関心や熱意を高めることが重要です。これを「内向きのブランディング」と言います。
この2つの観点でブランディングの失敗事例をお伝えします。下の図をご覧ください。まず、外向きのブランディングですが、当然ながら、看板やホームページ・営業ツールなどに一貫性がないと顧客に自社のブランドを伝えることができません。このようなケースに陥らないために、正しい外向きのブランディングが必要になります。
次に、内向きのブランディングですが、ブランド活動に社員が興味を示さなければ、そもそも外向きのブランディングが構築できません。正しい内向きのブランディングが必要になります。
事業向きのブランディング〜外向きのブランディング〜
では、どのようにして外向きのブランディングを進めるべきなのでしょうか。結論から言えば、次の図に示すように、「自社のUSPを正しく構築し、その上で、商品戦略と販売戦略を作り上げる」ことが重要です。
なお、USPと商品戦略・販売戦略については下の記事に詳しく触れていますので併せて御覧ください。
まず、ブランディングとは、商品戦略の一つです。そもそも商品戦略は、下の図のように、自社のUSPからパッケージ・ブランド・付随機能をまとめ上げるということが大前提になります。
そして、「ブランド・ステートメント」と呼ばれる、自社のブランドの特徴をまとめたツールが必要です。ブランド・ステートメントを軸に、さまざまな顧客接点を作り上げていくことで、一貫性の構築が実現します。
なお、留意すべきことは、次の図のようにそれぞれの顧客接点で担当者が変わることです。例えば、ホームページは制作会社が携わり、営業ツールは営業部員が携わります。看板は設置業者、テレビCMは広告代理店など、さまざまな関与者がいる中で、それぞれの関与者に対して、ブランドの考え方などをしっかりと伝えることが一貫性を保持するために重要な取り組みになります。
その際に必要なのが、「ブランド設計書」です。ブランド設計書は、前述したブランド・ステートメントだけでなく、ターゲットの具体的なイメージ、ロゴやアイコンの仕様、ブランド構築における禁止事項などをまとめたものです。
このようなルールブックを作り、関与者に考え方を共有することで、ブランドにおける一貫性を構築することができます。
組織観点のブランディング〜内向きのブランディング〜
次に、内向きのブランディングについてご説明します。そもそも、なぜ内向きのブランディングが必要なのでしょうか。下の図をご覧ください。
先ほど、ブランディングには認知度と好感度が必要だという話をしましたが、まさに内向きのブランディングも同じで、社内におけるブランドに対する「好感度」がなければ、ブランドは不成立になってしまいます。では、どのようにすれば社内の好感度を高めることができるのでしょうか。
結論から言えば、「ブランドを通じて果たす社会的使命を明確にすること」です。ブランドを通してどのように社会貢献を行うか、を明確にすることで、ブランドを世の中に広げることに社員が主体的になり、社員による積極的なブランド展開の後押しとなります。
自社の取り組みが社会貢献につながれば社員の気持ちが高まるのは当然ですが、それだけではありません。下の図24をご覧ください。こちらは、マーケティングの変遷をまとめたものですが、近年ではマーケティング3・0という考え方が重要とされています。マーケティング3・0では、「製品を作る」あるいは「ニーズを満たす」だけではなくて、「社会課題を解決する」ことが企業に求められています。
昨今は「共創の時代」と表現されますが、顧客と企業とでブランドを通して共に社会課題を解決するという考え方が重要視されているのです。最近では、スターバックスが環境問題に配慮し、プラスチックのストローから紙のストローに切り替えることを発表しましたが、これはまさにマーケティング3・0を実現した好例と言えます。
また下の図は、「企業は社会的・環境的課題に取り組むべきか」という問いに同意をした人に比率を出生年別にまとめたものですが、最近の若者はほぼ100%の比率で「取り組むべき」と回答しています。ここからも、単に社内の好感度を上げるだけでなく、社会的使命を持つことが非常に重要であることがお分かりかと思います。
また、このような社会的な変化に沿って誕生したのが、SDGsです。自社のブランドによってSDGsのいずれかを達成するという考え方に対して社員に共感してもらえると、内向きのブランディングが成功すると言えるでしょう。
一部の会社では、この考え方をミッション・ビジョン・バリューといった標語でまとめているケースもあります。端的に言えば、ミッションは使命、ビジョンは理念、バリューは行動規範を指します。
では、どのようにしてこのブランドを通して実現する社会的使命をまとめるのでしょうか。まず、社内で社会的使命についてまとめる方法としては、社員インタビュー・ワークショップ・社員アンケート・幹部検討会など、さまざまな施策があります。このような取り組みを通じて、ブランドによって実現する社会的使命を社員一丸となってまとめ上げましょう。
まとめ上げた上で、それを浸透させる施策が必要になりますが、浸透させるためには次の図のような取り組みが必要です。例えば、ブランドを通じて実現することをまとめたクレドやブランドブック、社員の考え方などを共有する社内報、それらを動画にまとめたコンセプトムービーなど、さまざまな手法があります。
実際に事例を見てみましょう。ある企業では「自社の取り組みが地域の未来をどう変えるか」について社員で意見交換をし、その内容をブランドブックとして一冊の本にまとめています。また、別の会社では、社会的使命を実現するためにどのような行動を示すか、という行動規範を漫画形式でまとめています。
また、ある企業では、自社の社会的使命をまとめたコンセプトムービーを作り、ブランディングだけではなく、マーケティング(例えばホームページやメルマガなどに掲載する)や採用(例えば新入社員説明会で上映する)に活用するなど副次的な利用も行っています。
このような工夫を凝らした取り組みを行うことで、自社のブランドを通じて実現する社会的使命を社員一人一人にしっかりと浸透させることが、ブランドの社内好感度を上げるために非常に重要です。
本日のまとめ
本日のまとめを改めてお伝えすると以下になります。
ブランディングは「認知度」と「好感度」で構成される
ブランディングには様々な副次効果がある
ブランディングは一貫性を保持することで消費者に想起してもらうことが重要である
一貫性を保持する為に外向きのブランディングと内向きのブランディングが必要である
外向きのブランディングはブランド設計書で一貫性を持たせることが重要である
ブランディングには集客・営業・商品が関わるため、非常に大きな取り組みになります。一方で、冒頭の財布の事例でお伝えしたように、その効果としては絶大なものになります。ぜひ、本記事の内容を現場に落とし込み、ブランディングに関して積極的に取り組みましょう。