編集を終えて
現在ノウフルの5月号に向けた記事を執筆しているが、丁度年度末ということもあり、各省庁や民間機関より着工数など様々な予測データが発表され始めている。建築業界は厳しいと言われて久しく、どのデータをみてもネガティブな数字が並んでいる。
実際にノウフル経由で経営のご相談を毎月20社以上頂き、状況などをお伺いしているが、ほとんどの建築会社が昨年の10月あたりから集客が激減し、回復していない。このような相談が後を尽きない背景としてはやはり前途した各省庁や民間機関が、データを提示するだけにとどまり、データを踏まえた上で各建築会社が何をすべきか、といった指針は打ち出していないことにあるように思う。そのような背景から今回、編集の結びとして残された紙面で業界のマクロ環境を見据えて建築会社が今何を考え、実行しなければならないかを提唱し、本号の締めくくりとしたい。
なお、私は述べ15年ほど建築業界に携わり、コンサルタントとして100社以上のご支援、3000人以上の建築経営者と対峙をしてきた経験と見解があるものの、考察に関してはあくまで個人の意見であることは事前にご了承いただきたい。
今後の住宅着工数の推移
2023年が始まり、住宅の着工数は例年と変わらず減少傾向にあることが発表された。下の図のように、さらには2030年に向けて着工数自体は86万から74万戸と14%
減少することが見込まれている。
内訳としては、持家・分譲戸建て・分譲マンション・貸家とあるが、それぞれにおいて減少すると予測されている。それぞれにおける減少要因は以下の通りである。持ち家については、税制金利動向や中古ニーズの増加などによって、着工数が減ると見込まれている。
中でも、人口世帯数減少によってなどの構造的問題によっての減少インパクトが大きいであろう。一方、分譲住宅においては、マンションと比較し値ごろ感があるということや、土地が手に入ること、コロナによる購買需要などであることで減少インパクトは少ない。
マンションにおいては、用地不足などが深刻化しており、今後大幅に減少するだろう。貸家については、都心部の需要と郊外ニーズ、あるいは相続対策時築古からの建て替えなどで増加する一方で、金利の先高感や賃貸住宅余りなどネガティブな要因で減少していくと考えられる。
求められる多角化戦略
このような中で、現状事業だけでは事業を維持することが困難になっていくと予測される。当然ながら、下記アンゾフのマトリックスで言えば、注文・分譲・規格といった観点で、自社にないサービスを展開をすることは、多くの会社が取り組みを行っていることだろう。
一方で、さらに新市場に展開するといった戦略も必要になってくると考える。その上で、今回はリフォームにおける事業拡大の可能性について触れてみたい。下の図は、リフォーム市場の市場規模を記したものである。直近で言えば、年次で5%の成長をしているというところがあり、非常に景気が良い業界ではあると考えられる。
しかしながら、私は2030年、10年後を見据えた際にそこまでの成長は見込めず、現状の7.3億という水準で高止まりするのではないかと考えている。その背景として、三つの観点をお伝えする。
リフォーム業界に勝ち筋があるのか?
まず、プラス要因としては、コロナによる家族時間在宅時間の充足という点が挙げられる。例えば、テレワークブースの増設や、トレーニングフロアの増設、あるいはグレードの高い仕様の選択などでリフォーム単価が上がっていくだろう。また、円安やウクライナによる物価高、エネルギー安と職員の人件費増加という観点も、市場規模を拡大させる上で大きな要素になるだろう。
また、団塊ジュニア層の設備交換適齢期が迫っていることもあり、その点が、市場規模を拡大させる要因として考えられる。一方で、マイナス要因としては、物価の上昇トレンドによるリフォーム消費の減少が挙げられる。前途した物価上昇が、最終的には買い控えに繋がり、リフォーム消費が今後は減少するのではないかと考えている。
また、コロナ収束による外向き消費が増加することによって、旅行や食事の消費が増え、結果リフォーム消費が減少するのではないかと考える。これらマイナス要因のインパクトは大きく、市場規模は下がらないにしても、今後拡大することは非常に難しいのではないだろうか。
一方で、成長市場規模を成長させるドライバがあることも見逃せない。大きく四つあると考えている。一つ目が、断熱耐震バリアフリーなどへの補助金である。そして、メーカーの省エネ省施工モデルなどの開発が今後も行われていくことで、市場が成長することがえられる。
また、リフォーム業者の積極的な需要喚起によって、市場規模を拡大するという未来もあり得るだろう。さらには、近年増えている”子の独立”などのライフスタイルごとにリフォームを行うというトレンドが浸透していけば、市場規模としては拡大していく可能性は高い。
以上を踏まえると、下記を押さえることが重要であろう。
建築は業界縮小に向けて新市場への展開が求められる
中でも持ち家(注文)は市況が厳しく緊急性が高い
リフォーム市場については規模拡大がありえるが高止まりが予想される
まずはOBのリフォームなどを確実に積み上げることがから始めるべきである
最後に
以上、建築業界の今後の考察になるが向こう10年、建築業界は本当の冬の時代に差し掛かる。このような状況において茹でガエルにならない為には常に危機感を持ち、ヒト・モノ・カネに次ぐ「情報」についてアンテナを張ることが重要である。
実際、成長している知り合いの経営者は皆情報の高い。そのような志高い建築従事者の方々にとってノウフルが貴重な情報源になればそれ以上のことはない。