編集を終えて
現在ノウフルの6月号に向けた執筆をしているが、主要な住宅企業11社の2023年3月度の受注金額速報値(対前年同月比)が発表された。結果、プラスが5社、マイナスが6社で2ヵ月連続でマイナス企業数がプラス企業数を上回った。子育て世帯の住宅取得を支援するこどもみらい住宅支援事業の訴求に力を入れるものの、受注環境好転までには至っていない。
実際にノウフル経由で経営のご相談を毎月20社以上頂き、状況などをお伺いしているが、ほとんどの建築会社が昨年の10月あたりから集客が激減し、回復していない。このような状況下で各建築会社がどのような戦略オプションを設定すべきなのか。私は規模によって適切な戦略オプションが違うと考えている。
今回、編集の結びとして残された紙面で規模に沿った適切な戦略オプションを提唱し、本号の締めくくりとしたい。なお、私は述べ15年ほど建築業界に携わり、コンサルタントとして100社以上のご支援、3000人以上の建築経営者と対峙をしてきた経験と見解があるものの、考察に関してはあくまで個人の意見であることは事前にご了承いただきたい。
人口減少により市場は大幅に減少
今後、人口減少によって頭数が大幅に減少することは、様々なところで言われている通りである。2020年には80万と2030年には70万と2040年には60万棟と大幅に市場が縮小していく。
図にあるように、80万棟時代においては集客数が500組、そして契約率が10%で50棟だったとすれば、60万棟時代には、市場が25%減少するわけで、375組になる。そうすると、契約率が10%であれば、棟数は38棟と大幅に減少してしまう。
「現状維持は後退」はウォルト・ディズニーの言葉であるが、まさに建築業界に置いて現状維持では衰退の未来しか残されていない。このような事態をあえて今のうちに大きく戦略を切り替えていかなければならないのである。では、どのように戦略を切り替えていくべきなのか。
規模別に見る建築会社の推移
また、規模によって戦略オプションだけではない。外部環境に対する風当たりも、規模によって大きく変わってくると考えている。ここからは下図を軸に各規模ごとの戦略オプションと市場予測を見ていこう。まずはハウスメーカーである。結論から言えばハウスメーカーに関しては他社と差別化、ブランディング営業ルートの確立ができており、生き残る可能性が高いと考えている。
そのような中で、戦略オプションとしては豊富にあるOBを活用したストック事業の展開や、国内非住宅事業の強化・海外展開などが挙げられる。一方でこのような戦略を推進しなければハウスメーカーとて生き残りが難しいことは大前提である。次に、大手ビルダーである。大手ビルダーは、年間100棟〜1000棟と定義している。大手ビルダーに関しては、ハウスメーカーと比較し外部環境による風当たりは強く、他社と差別化・ブランディングができなければ、生き残る可能性は低いであろう。
このような中で、エリア拡大(全国展開)や多角化などの考え方が今後重要になってくる。そして、次にワンストップビルダーである。ワンストップビルダーとは建築請負からメンテナンス・リフォームなどワンストップで事業を展開するビルダーを指し、おおむね50棟から100棟と定義している。実は、今後このワンストップビルダーが外部環境のあおりを最も受けるのではないかと考えている。
今後、市場が縮小する中でリフォーム市場や不動産市場への展開がが必要になってくる一方で、前述したハウスメーカーや大手ビルダーと比較し、資金力と採用力が高くないので事業多角化や後継者育成が非常に難しい。また、次に挙げる地場有力ビルダー(年間30棟〜50棟)に関しても同等である。
人手不足・営業力とブランド力のなさが致命傷であり、多角化・後継者育成の難易度が高く、FC傘下で生き残るか淘汰の二極化になるであろう。ワンストップビルダーと同様多角化と後継者育成だけでなく、営業力・ブランド力の強化が求められる点を踏まえると最も厳しい規模レンジになるであろう。
そして、次に地場の工務店(年間5棟以下)である。こちらについては後継者不足で廃業のケースが増加するが、自前でやる量なので、生き残る可能性も一定見込まれると考え曇りマークにした。
ついでに建材・住宅設備市場についても見てみよう。建材・住宅設備市場についても例にもれず厳しい市場環境となっていくであろう。今後おそらく各市場に大手3〜4社に集約され、シェア4番手以下は赤字のため撤退するのではなかろうか。
最後に
このように、今後、棟数が減少していく中で、規模によって狙うべき戦略オプションが変わってくるであろう。また、外部環境における深刻度も大きく変わる。繰り返しになるが、今後の市場を見れば「現状維持は後退」であり、何もしなければ競争の中で淘汰されてしまう。
このような状況下において「茹でガエル」にならない為には常に危機感を持ち、ヒト・モノ・カネに次ぐ「情報」についてアンテナを張ることが重要であり、一人でも多くの建築従事者の方々にとってノウフルが貴重な情報源になればそれ以上のことはない。