編集を終えて
現在ノウフルの3月号に向けた執筆をしているが、主要な住宅企業11社の受注金額速報値(対前年同月比)が発表された。結果、マイナス企業数がプラス企業数を上回った。子育て世帯の住宅取得を支援する、こどもみらい住宅支援事業の訴求に力を入れるものの、受注環境の好転までには至っていない。
実際にノウフル経由で経営のご相談を毎月20社以上いただき、状況などをお伺いしているが、ほとんどの建築会社が昨年の10月あたりから集客が激減し、回復していない。このような状況下で各建築会社がどのような戦略を設定すべきなのか。今回、編集の結びとして残された紙面で適切な戦略構築にお役立ちできる考察を提唱し、本号の締めくくりとしたい。
なお、私は延べ15年ほど建築業界に携わり、コンサルタントとして100社以上を支援し、3000人以上の経営者と対峙をしてきた経験と見解があるものの、考察に関してはあくまで個人の意見であることは事前にご了承いただきたい。
太陽光発電設備の市場
今回は、住宅業界の注目テーマを考察するという題目で、太陽光発電設備の市場について考えてみたい。多くの住宅会社が導入を進めている太陽光発電設備であるが、その実態は、どうなのだろうか。
下の図をご覧いただきたい。こちらは、国土交通省が出している、太陽光発電設備の導入率を示したグラフである。
ご覧の通り、2030年の目標を6割としているのに対し、注文住宅ではおよそ4割程度、分譲住宅においては2割と導入率が非常に低い点が目立つ。中でも分譲マンションにおいては、導入率が1割を切っており、今後においても課題が浮き彫りになっている状態である。そのような状況下において、政府は太陽光発電の導入に向けたさまざまな動きをとっている。
東京都と神奈川県においては、太陽光発電設備の設置義務化条例を大手ハウスメーカー50社に限りスタートさせるといった取り組みを行い、東京都だけで言えば、初期費用ゼロサービスを提供する事業者への助成を行っている。また、京都府では、延べ床面積300㎡以上の新築・増改築時に再エネ設備の設置を義務化している。また、群馬県でも同じような形で、延べ床面積2000㎡以上の新築・増改築時に再エネ設備の設置を義務化するなど、さまざまな取り組みを行っている。
中でも、神奈川県においては、特に川崎市での義務化条例において、早期対応が求められている。左の表にあるように、自治体ベースの温暖化ガス排出量ランキングは川崎市がダントツの1位といった状態であり、太陽光を活用した対策が求められているのである。
このような太陽光発電設備の導入であるが、導入率が低い要因としては三つ考えられる。
一つ目は、初期費用の高さである。初期費用のハードルが高いため、なかなか導入に踏み切れないといった声を聞くケースが多い。二つ目に、投資回収の不透明さである。売電というビジネスモデルではあるものの、どの程度の投資が回収できるのかが憶測にすぎず、意思決定する際のハードルとなっている。また、三つ目に、パネルの設置スペースがないといった問題も関わっている。特に前述した分譲マンション市場においては、マンションという特性上、パネル設置が難しいという事情がある。
では、このような状況下で行われている取り組みについて紹介しよう。下の図をご覧いただきたい。こちらは、建材一体型太陽光発電システムについて図解したものである。
このシステムでは、建物の高さを最大限に活用できると共に、外観の意匠性も配慮する最新の技術が活用されているのだ。このような技術を活用することで、屋根だけではなく、窓にも太陽光パネルを設置することができ、設置面積が一気に広がると考えられる。また、下の図にに示したのはペロブスカイト型太陽電池である。
建物の壁やEVの屋根など、従来は設置が難しかった場所にも設置できるような特殊な構造体を使っているため、こちらにおいても設置面積が広がると期待されている。
最後に
以上、今回は「住宅業界注目テーマ 太陽光発電設備について考察する」というテーマで見てきた。
現在は多くの住宅会社が太陽光発電設備の導入を進めており、浮き彫りになっている課題に対しても、さまざまな対策が打たれている。このような状況下において「茹でガエル」にならないためには、常に活用できる新しい情報にアンテナを張ることが重要であり、一人でも多くの建築従事者の方々にとってノウフルが貴重な情報源になればそれ以上のことはない。