編集を終えて
現在ノウフルの11月号に向けた執筆をしているが、主要な住宅企業11社の受注金額速報値(対前年同月比)が発表された。結果、マイナス企業数がプラス企業数を上回った。子育て世帯の住宅取得を支援する、こどもみらい住宅支援事業の訴求に力を入れるものの、受注環境の好転までには至っていない。
実際にノウフル経由でのご相談を毎月20社以上いただき、状況などをお伺いしているが、ほとんどの建築会社が昨年の10月あたりから集客が激減し、回復していない。このような状況下で各建築会社がどのような戦略を設定すべきなのか。今回、編集の結びとして残された紙面で適切な戦略構築にお役立ちできる考察を提唱し、本号の締めくくりとしたい。
なお、私は延べ15年ほど建築業界に携わり、コンサルタントとして100社以上を支援し、3000人以上の経営者と対峙をしてきた経験と見解があるものの、考察に関してはあくまで個人の意見であることは事前にご了承いただきたい。
4P戦略ついて
今回、新たな企画コンテンツとして、4P戦略というテーマについて見てきた。
なお、マーケティングの4Pについて詳しい記事は下記に記載しましたので、併せてご覧ください。
改めておさらいをすると、4P戦略とは、商品戦略、価格戦略、ルート戦略、プロモーション戦略という四つの戦略を指す。
さらに詳しく言えば、下の図にあるように、顧客にリーチする飛び道具である媒体がプロモーション戦略で、顧客を呼び込む場所そのものがルート戦略となる。
このような中で、住宅業界においては、プロモーション戦略しか見ない人がマーケターと呼ばれているケースがよく見られる。インスタグラムを扱えばマーケター、WEB広告運用を扱えばマーケターといった具合である。本来、それらはプロモーションでしかない。プロモーション戦略を見る領域はマーケティングの一部分でしかなく、それらを扱うだけであれば、それはプロモーターでしかない。
商品戦略やルート戦略、価格戦略までを押さえて初めてマーケターと言われるのである。周りにマーケターと呼ばれている人がいれば、商品開発はできるのか、商品価格の決定はできるのか、総合展示場や単独展示場などの出店戦略は描けるのか、を今一度聞いていただくと見極めができるだろう。
なお、この4P戦略において「営業」の位置付けを聞かれることがよくある。4P戦略は、STPという言葉とともにコトラーという学者が提唱したものであるが(諸説あり)、当初コトラーはアメリカのグローバルトップ500に入る企業を調査対象としていた。この企業群には小売業が非常に多かったことから、セールスの領域を踏まえずに4Pという言葉ができたという経緯があり、営業(セールス)は4Pの中に含まれていない。ただ、便宜的には販売活動と意訳されるプロモーション戦略に含めるのがいいであろう。
このような中で、特に住宅業界においては、営業を含め、プロモーション領域に関する議論が活発にされている。これも単なるプロモーションがマーケティングと誤訳される背景でもあるのだが、その原因の一つに、住宅業界にサービスを提供する企業にとって、プロモーション領域は非常にビジネスにしやすいという点が挙げられる。
例えば、Web制作・インスタグラム投稿代行・広告運用代行・マーケティングオートメーション・LINE集客・オーナーズクラブのアプリ開発などは、プロモーション領域のテーマである。このプロモーション領域は、保守費用という固定月額でのビジネスがしやすく、近年のSaaS(月額利用料で儲けるビジネス)というモデルとも非常に相性が良いので、プロモーション領域をビジネスの対象にしている企業が数多く存在する。
しかし、本来必要な観点は、プロモーションだけではなくて、商品戦略や価格戦略、ルート戦略を含めて大局的に見ることである。各プロモーション業者は近視眼的なアプローチしかしないため、売り上げという成果が出ないのである。
そもそも下の図にあるように、ドラッカーが提唱しているマーケティングの理想は、販売を不要にすることだ。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである。
つまり、究極のマーケティングとは、プロモーション自体をなくしても売れる状態を示している。言い換えれば、マーケティングの本質はプロモーションではなく、価格の決定を含めた商品開発にある。繰り返しになるが、マーケターというのは、商品や価格、各ルートを含む4P戦略全体を見て初めてマーケターと言えるのであり、単にプロモーション領域を見ているだけではプロモーターでしかない。さらに言えば、本質的にはプロモーションに価値はないのである。このような前提を事前に押さえておくことが、今後の売り上げ改善には重要である。
最後に
以上、今回は、新たな企画コンテンツとして「4P戦略」というテーマについて見てきた。
近年、住宅業界においては厳しい状況が続いており、多くの会社がその取り組みに悩んでいる。このような状況下で、マーケティング領域を今一度見直し、活用できるノウハウを実践しながら、正しい戦略を立てていくことが重要である。一人でも多くの建築業界従事者の方々にとって、ノウフルが貴重な情報源になればそれ以上のことはない。
引用