今回は、土地情報サイトの運営で社員一人あたりの生産性が1億円を超えた宮崎県のS社について見ていきます。まず、S社について簡単に説明します。宮崎県で注文住宅を販売している会社で、一級建築士事務所登記をしており、デザイン住宅を強みとしています。近年では分譲事業も強化している点が特徴的です。
では本日の目次をお示しいたします。
当初の課題
下図はS社が抱えていた課題と目標、ギャップを埋めるための対策を記した図です。順に説明します。
元々S社では、チラシを中心に集客をしていましたが、チラシの効果性が低下しているという課題がありました。とはいえ社員数も少なく、新たに集客構造を作るとしても人手が足りず手間をかけることができないといったジレンマを抱えていました。
そのため、「チラシに依存しない集客構造を確立したい」、もっと言えば、「人員コストをかけずに集客を増やしたい」と考えていました。このような条件下で、S社は「土地から客」向けの集客構造を確立しようと考えるに至りました。
S社の取り組み
では、「土地から客」向けの集客構造とはどのようなものでしょうか。下の図をご覧ください。
住宅を検討している層には、「土地から探す」方と「建物から探す」方がいます。ここからは土地から探す方を「土地から客」、建物から探す客を「建物から客」と呼びます。土地から客は一般的に不動産会社を訪問し、情報収集をします。一方で、建物から客は工務店を訪問し、情報収集をします。
通常、注文住宅の店舗では「建物から客」の接客を行いますが、S社は「土地から客」向けに「土地情報専門のサイト」を立ち上げ、新たな集客構造を構築したのです。なお、この考え方は不動産会社が多い分譲市場とは相性が悪く、不動産会社が少ない注文市場との相性が良いと言われています。
自エリアが分譲市場か注文市場かを判断するポイントとして、盆地が多いか山林が多いかで判断するのが最も分かりやすいでしょう。盆地が多ければパワービルダーが大量に仕入れを行うので分譲市場になります。一方で、山林が多ければ土地を大量に仕入れることが困難なのでパワービルダーが参入していない(あるいはシェアが少ない)ケースが多いです。S社が本社を構えている宮崎県は、下の図の通り山林が多いので注文市場であり、この集客構造は比較的相性が良かったと言えます。
ここからは、S社の土地情報サイトがなぜ成功したのかについて、「戦略面」と「販促面」の2点から見ていきます。まず、戦略面での成功要因は、「独立事業として展開する」「インセンティブでシナジーを創出する」「未公開物件を収集する」の3点です。順番に見ていきましょう。
①独立事業として展開する
住宅会社で土地情報サイトを展開して失敗しているケースの多くは、注文住宅の店舗を不動産販売の店舗としても使用する、在籍している注文住宅の営業パーソンを不動産営業でも活用するなど、注文事業と棲み分けていない点にあります。そもそも、不動産販売の店舗が注文住宅の店舗と同じであれば、顧客は警戒し、来場につながりません。
また、不動産業務は、接待や不動産会社のネットワーク作りなど注文住宅の営業パーソンには合わない業務が多いため、強みを活かしづらい傾向にあります。ですから、不動産の店舗は注文住宅の店舗と切り分けて、人員についても不動産営業の人員を新規で採用することが重要です。
②インセンティブでシナジーを創出する
土地情報サイトを事業として完全独立させた際、注文住宅業務とのシナジーを埋めないという課題が生じます。完全に独立した不動産展開を行うと、自社に土地付けを行う意識が弱くなり、仲介収益の最適化に意識が向いてしまいます。その対策としてはインセンティブの設定が有効です。
例えば、S社では、自社へ土地付けした場合は固定額の30〜50万円に加えて建築粗利の3〜5%を付与しています。結果、50〜100万円が不動産粗利になるのですが、これがインセンティブとして機能し、自社への土地付け率が格段に高まります。
③未公開物件を収集する
土地探しをしている人は、不動産物件についてすでに情報を網羅しているケースが多いです。単にレインズやポータルサイトに掲載中の物件を紹介するだけでは、集客や契約は困難です。ですから、レインズやポータルサイトに掲載されていない未公開物件を掲載することが重要です。
そのためには、不動産会社に対して広告掲載料や仲介手数料を取らない方針で進めると、良質な物件が集まるようになります。メインは注文住宅での収益ですから、ここでの不動産収益は無料にしてでも情報の質を高めることが重要です。以上が、戦略面でのポイントになります。
次に、販促面における土地情報サイトの成功のポイントについて見ていきます。S社では、三つのポイントを押さえることによって効率的な集客構造を実現しました。一つ目が「集客構造の強化」、二つ目が「(ローコスト)セット価格の訴求」、三つ目が「IT活用による効率運運用です。順番に見ていきましょう。
①集客構造の強化
一つ目が集客構造の強化です。住宅検討層の最初の行動パターンは、インターネットで検索することから始まります。例えば、下の図のように、建物から客はインターネット上で「宮崎×戸建て」などで検索しますが、土地から客は「宮崎×土地」などで検索し、ネット上の「土地情報サイト」に辿り着きます。
ですから、下の図のように、「宮崎×土地」で検索した際に最上位に自社のウェブサイトが表示されることが重要です。そのためには「宮崎×土地」の検索画面で自社のサイトを上位表示させるSEOというテクニックが必要になります。
こちらについては、下記の記事に取り組みをまとめていますので参照にしてください。
それだけではありません。下の図のようなウェブサイト向けのテレビCMを活用することによって、土地情報サイトにアクセスしてもらうことが非常に重要です。こちらは、S社が実際にテレビCMで土地情報サイトを紹介したものです。ご覧頂くと、CMの最後に「今すぐ検索」といった画面が出てきます。このように、リアル(CM)からデジタル(WEBサイト)への導線設計が最も重要になります。
②セット価格の訴求
二つ目に、セット価格の訴求です。一般的には、土地から客は建て売りも踏まえて検討しているため、比較的予算がないケースが多いです。ですから、「土地とセットの価格」や「毎月の返済額」を訴求することが非常に重要になります。S社では下の図のように、土地情報の各ページに「土地+建物価格と毎月の返済額」を自動で表示するようにしています。
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