新規事業の3原則
まず、S社には下の図に示すような課題があった。
既存事業が現状よりも拡大することが困難であったが、新規市場へ事業を展開する人手や経験がなかった。このような状況の中、元々住宅事業を営んでいたS社は、中古住宅とリノベーションを掛け合わせた事業が適切であると考え、事業の拡大および展開を行った。新規事業を立ち上げる上では、次の三原則を押さえる必要がある。
すなわち、業界規模が拡大しているか、社会課題を解決できるか、採用市場で人気があるか、である。この三点を満たす新規事業は成功確率が高いとされている。この観点から見ると、中古住宅×リノベーションは、下の図にあるように、中古住宅の取引量が新築を逆転し、4年連続で上回っている点からも、十分に可能性が見て取れる。
また、二つ目の社会課題に関しては、日本全国で空き家が年々増加傾向にあるという事実からも、この事業には社会課題を解決できる可能性があると言える。
さらに三つ目の採用市場においても、このような社会課題に取り組む中古リノベーション事業は、採用面でも有利であることが下の図からも分かる。
つまり、新規事業の三原則において、中古リノベーションビジネスは適しているということだ。その上で、中古リノベーション事業のメリットについて見ていこう。
中古リノベーション事業のメリット
①新築販売よりも1000万円ほど安い提案
まず一つ目のメリットは、新築事業よりも1000万円ほど安く提案ができる点である。下の図にあるように、同条件の新築と中古リノベーションを比較すると、4500万円の新築に対して、中古リノベーションであれば2500万円で中古住宅を仕入れ、リノベーションに1000万円を追加しても、新築よりも1000万円ほど安く提案することが可能である。
②1000万円×粗利35%の高収益なモデル
次に挙げられるメリットが、粗利35%の高収益モデルである。例えば、住宅購入検討客に対して集客を行い、中古仲介も前提として行っていた場合の総額が3000万円だと仮定すると、物件価格が3000万円でも片手仲介の3%、すなわち90万円の仲介手数料が収益として加算されるため、利益率が非常に高い。
さらに見ると、3000万円の物件を販売した際、物件価格が2000万円、請負金額が1000万円とする。物件価格2000万円に対する仲介手数料3%は60万円となり、1000万円の粗利30%に対する請負粗利は300万円である。これにより、収益は360万円となり、通常の仲介業務の約4倍の利益を得ることができる。また、競合や相見積もりもなく、高単価のリノベーションを受注することができる。
③相見積もりにならないモデル
三つ目のメリットは、相見積もりにならないビジネスモデルが存在する点である。下の図は、中古リノベーション事業のフローを示したものであるが、初回接客、事前審査、物件案内、空間提案、買付申し込み、物件・請負契約と進めることで、最短でおおよそ1週間以内に契約を締結することができる。これにより、相見積もりが発生せず、非常に有利な販売活動となる。
④住宅・リフォーム・不動産会社が参入しやすい
最後のメリットは、住宅・リフォーム・不動産会社がこの領域に参入しやすいという点である。例えば、下の図は住宅業界の業態をまとめたものである。
建築機能の有無、不動産機能の有無という観点で見たとき、建築機能があって不動産機能がない、いわゆる一般的な工務店であっても、建築機能を活用することでシナジーを生み出すことができる。
S社の取り組み
ここからは、S社が成功したポイントについて述べていく。
① ターゲットに合わせた「感性マーケティング」
まず一つ目は、ターゲットに合わせた感性マーケティングである。下の図は、前述した通り中古リノベーションの事例であるが、価格帯が新築より1000万円近く安いため、若年層の反響が増え、結果若年層向けのマーケティングが必要になる。
S社では、下の図のようにペルソナシートを作成し、ターゲットを比較的若い層に設定した。
また、下の図にあるように、人の消費行動に関する考察では、女性は男性と比較して、好きか嫌いかという情緒的な価値で判断する傾向が強く、感性消費を行うとされている。
このような考え方に基づき、S社では販促物を比較的カジュアルでターゲットに即した内容に仕上げたことが、成功のポイントとなった。
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