株式会社アドキャストは、東京都23区を中心に、不動産売買仲介事業及び 不動産コンサルティング業を展開している。未公開不動産の豊富な情報量と徹底した物件調査による リスク開示能力とローンコンサルティング、ライフプラン、リフォーム、賃貸、アフターサービスといった 関連サービスを武器に、都内23区に11店舗まで拡大している。今回は同社の代表である、 藤森哲也氏(代表取締役)に取り組みや販売における考え方、経営のモットーなどについてお聞きした。(聞き手:ノウフル編集長狩野)
ーまず、御社の概要を教えてください。
弊社は都内に11店舗を展開し、不動産売買仲介事業及び不動産コンサルティングを行っています。売り上げは年間35億円で、社歴は18年と短く、2024年度のベストベンチャー100にも選ばれました。
ー創業の経緯について伺ってもよろしいでしょうか。
前職は、300人ほどの規模の不動産会社で売買仲介を行っていました。その際、29歳での役員経験を経て、退職後の31歳のときに元上司の会社の立ち上げに携わることになりました。そして、2期目から代表に就任しております。その後は、経営が順調である中でさまざまな体制の変化が加わり、自身で新たに会社を立ち上げる経緯となりました。
ー御社の成長戦略についてお聞かせください。
もとより、私は現場が好きで、起業家になろうと考えていたわけではありませんでした。不動産におけるサービスも、セールスマン的なイメージではなく、不動産のコンサル事務所のような感覚で捉えていたので、その流れが現在の事業に影響しているようです。不動産会社でありながら不動産コンサルティング業も行い、事業を拡張してきました。
また、業界変革をしていきたいとの考えがあり、不動産の買い方やビジネスについてセミナーで伝えるような形に方向を変えていきました。このような逆張りで事業を展開しましたが、不動産仲介もお客様のニーズから切り離すことはできない重要な事業であると実感しています。
ー御社では、YouTubeも配信されているようですが、こちらも事業の拡張に影響があったのでしょうか。
当時は、コロナ禍の緊急事態宣言の影響で、お客様にも会えず経営の危機に陥りました。スタッフを自宅待機させる状況にまでなり、幹部を集めて今後について話し合ったところ、YouTubeで動画配信をするという思い切った方針をとることになりました。
今では、YouTubeから、オンライン接客対応・オンライン契約など、できる施策をいろいろと試した結果、今ではさまざまな反響を受けています。コロナが落ち着き、動画を見て家を買いたいと来店くださる人々も増え、期待以上の流れとなりました。
ー非常に軽いフットワークで、新しい展開を生み出してきたのですね。社長が目指す業界の変革について詳しくお聞かせください。
私の人生にはいつも真っ直ぐ生きたいとの考えがあり、向かうところ敵なしのような状況でも、自身ができないことをミッションに捉えてきました。例えば、アメリカではライセンスの取得やエージェント制などにより、不動産仲介業はかなり敷居が高い職業ではありますが、日本ではこの部分がなくとも不動産が売買されてしまいます。
私は、不動産仲介業を医者のような敷居の高いものにしていきたいとの壮大な夢を持っていて、今でも実現までには至りませんが、だからこそ謙虚に努力しなければならないと考えています。
ーなるほど。そのようにお考えになるきっかけがあったのでしょうか。
9年間のサラリーマン時代に支店長、役員などを経験し、学ぶことが多くありました。不動産は人生で一番高い買い物で、そのミスはとても大きいものですが、普通に取引を行ってもトラブルになる事例が3割ほどは発生します。ですので、物件調査も、ゴミ置き場や自治会の様子、災害リスクや近所の様子など、細かく調べ上げて契約前に情報開示する必要があります。
宅建業法上の範囲で説明をしていても、お客様からの指摘でトラブルにつながることも多いため、契約が進んでから気づく事例がないように、どんどん情報を開示していく考えで調査レポートを提供するようにしました。当初は経営陣からさまざまな意見を受けましたが、今では十数年かけて作り上げてきたトラブルのない対応を土台としています。
業界変革はなかなか難しいものではありますが、弊社が知れ渡っていく中で、作り上げてきたビジネスモデルが真似されていくことが理想です。これらは簡単なものから真似ることができるため、できる範囲で、新たな市場が広がっていけばいいと考えています。そうすることで、初対面のお客様が感じやすい不信感なども払拭されるような業界に変わっていけたら嬉しいです。
ー安心を売れる不動産会社が増えると、業界の意識も上がっていきそうですね。
ビジネスは、本来、お客様が求めている部分を引き出していくことが重要であると考えています。例えば、ライフプランについては提案が不要であると遮られた際でも、その必要性を認識できるようなサポート体制など。弊社に来たからこそ得られる、価値あるサービスを提供することが目標です。
インターネットで検索できるような情報ではなく、お客様の人生をもっとドラスティックな形に変えられるような住宅探しを追求することが重要であり、それを目指していくことで企業の付加価値が生み出されるのではないかと感じました。中身のあるサービスを提供することで、期待以上のパフォーマンスを評価してもらえるのではないかと考えています。。
ーコンサルティングでは、教育の部分が大切だと思いますが、社内研修などの体制はどうされているのでしょうか。
社内では定期的に研修などを行い、契約を取れないなどの問題は重視せず、プロセスに対してフォローを行う体制をとっています。KPIを分解して、徹底的に管理職がスタッフのプロセスの状況を確認し、数字が上がらない原因がどこにあるのかを見ることが重要だと考えました。
また、基本的な部分で言えば、アドキャストがどのような会社であるのか、全員が同じく言語化できるような教育も行っています。
ーでは、御社の強みについてお聞かせください。
弊社の強みは、東京都内23区を中心として、インターネット上に出ていない情報を集めて売ることにあり、この部分を細分化している状況です。やはり不動産においては物件情報が肝であり、自社物件などを含め、未公開物件情報を多く押さえることは重要であると考えています。私たちのやりたいビジネスにはビジョンがあって、それを実現するためには、事前のセットアップが大切です。
飲食店で表すなら、料理はおいしいけれど従業員の接客態度や衛生面が悪い、逆に、ホテル並みのホスピタリティがあるけれど料理がまずいといった状況で、これでは価値あるサービスを提供することが叶いません。今の不動産業界はこのように見えています。お客様は両方求めているわけで、物件情報の収集力もサービスカテゴリーも同等に行うバランスが重要でしょう。
ですので、地域に根ざして情報を集約させていくために、日々の相場相談などを受けながら、土地を出すまでの期間にキャッチアップした物件の整備を行うなど、うまく商品化に持っていくような形をとっています。このように未公開の物件情報が揃うと、社員に契約を競争させない環境づくりにもつながりますし、店舗が増えるほど信頼性も上がっていきます。また、事前データが整っていると、相場を聞かれた際でも一番高い金額を提示できるため、そのほかのフォロー体制も踏まえて、任せてもらえる企業へ成長していきます。
ーなるほど。中でも大切にされている方針はありますか。
やはりトラブルがないことが重要だと考えています。例えば、利益の出ない物件が大量に余っているとの相談があった際、業者だけでなく、仲介としても販売ができるように真摯に向き合う姿勢が必要です。エンドクライアントも同様で、契約を交わす前の事前説明を抜かりなく行うことが求められるでしょう。トラブルがなければ売主も安心できますし、一つのビジネスモデルとして、社員教育も込みで、中身のあるものを現場に落とせるよう改善の努力を怠らないようにしています。
また、弊社は新卒写真が60〜70%ほどを占めており、若い人材が稼げる環境をつくるためにもチーム制をとっています。そのため、弊社のスタッフで数字が上がる人間は、ベテラン社員ばかりではありません。マネージャーや支店長と一緒に素直に成長できる新卒社員も多くいます。
やはり、広範囲でビジネスをやっていくためには共感力が重要であると感じてきました。ですので、店舗間でお互いが情報を交換し合う、社内で潰し合わずに協力して大きくなっていく体制を目指しています。学習性のある企業を育てるには、新卒時から稼げるような仕組みづくりが必要であると考えています。
ー業界の課題については、どのようにお考えでしょうか。
業界では、属人性の課題が難しいと考えています。ですので、弊社でも、対応したスタッフに関わらず100点になるようなサービス提供を心がけてきました。当初は個人的なスキルを高めることに注力していましたが、お客様から受け取る購入アンケートでは評価に大きな変数が出てしまったため、分業制で全体的に同等のレベルで対応ができるように改善しました。コストはかかりますが、採算を合わせるような努力もしながら、結果に偏りが出ないようにこのような体制をとり、会社の商品力・ブランド力を安定させることが大切であると考えています。
ーチーム体制をとる中で、評価制度についてはどのように定めているのでしょうか。
基本的に、マネジメントに給与を払いたいという方針でおり、なるべく上の役職固定給を高く設定しています。若いうちはプレーヤーとしてスキルを磨き、ある程度経験を積んだら、マネジメントで自分のノウハウを下に教えて人生を豊かにするような組織体制が理想です。
そのためには、プレーヤーで入った人も、自分基準でなくスタッフ目線で指導できる必要性があり、そこはマネジメント研修を通してアドバイスしています。新人でマネージャーになる人とは、一ヶ月に一度の面談で悩みを聞き、部下の成長にも偏りが出ないようにフォローしています。このような取り組みが、「プレーヤーの売り上げはあるけれど、組織立てができない」という課題解決につながるのではないかと考えています。
ー最後に、今後の展望についてお聞かせください。
都内の商圏を固めながら不動産の地位を上げていくには、仲介手数料で45〜50億円ほどの土台を築き、そこから売却やそのエージェント型ビジネス、フランチャイズなどに手を打っていくべきだと見据えています。5年後には、成功モデルを全体でどのように活かすべきかなど、業界変革のミッションを掲げて、検討していきたいですね。
ー素晴らしい展望ですね。本日は、ありがとうございました。
株式会社アドキャスト
株式会社アドキャストは、東京都23区を中心に、不動産売買仲介事業及び不動産コンサルティング業を展開している。未公開不動産の豊富な情報量と徹底した物件調査によるリスク開示能力とローンコンサルティング、ライフプラン、リフォーム、賃貸、アフターサービスといった関連サービスを武器に、都内23区に11店舗まで拡大している。