今回は「賃貸事業に大転換することで安定収益化し、上場を果たした和歌山県のアズマハウス」について見ていきます。
まず最初に、アズマハウスについてご紹介します。アズマハウスは和歌山県ナンバーワンのビルダーであり、県内では和歌山市と岩出市にエリアを限定し、戸建てシェア10%を握っています。県内3ヶ所に展開する不動産店舗の認知度が高く、地元で圧倒的なブランドを築いている点が特徴です。
ここからは、アズマハウスがどのようなビジネスモデルを展開し成功しているか、について考察していきます。
なお、本記事は戦略論について論じるため、基本的な戦略の考え方をこちらの記事を踏まえて把握した上で読み進めてください。
では本日の目次をお示しいたします。
本日のまとめ
まず、本日のまとめは以下になります。
事業ライフサイクルモデルとは事業ライフサイクルの前半に巨大な設備投資を行い、事業ライフサイクルの後半で刈り取るモデルである
他業界で事業ライフサイクルモデルを採用している企業は富士フィルムである
事業ライフサイクルモデルは衰退産業において絶大な効果を発揮する
大枠を押さえた上で一緒に見て参りましょう。
事業ライフサイクルモデルとは?
まず、アズマハウスが展開している事業ライフサイクルモデルについて説明します。
事業ライフサイクルモデルは、事業ライフサイクルの前半に巨額の設備投資を行い、思いきったマーケティングで一気に市場を取りに行って業界での順位を上げ、事業ライフサイクルの後半で刈り取るというパターンを展開するモデルです。下の図にある通り、導入期・成長期には積極的に投資を行い、成熟期・衰退期には資金を引き揚げる取り組みを行います。
このビジネスモデルにはポイントが三つあります。一つ目は売上ではなく利益のピークで引き揚げを行うこと、二つ目に事業ライフサイクル前半は積極投資して順位を上げること、三つ目に事業ライフサイクルの後半は投資させないことです。この三つを徹底し、収益を最大化している点が特徴です。
この考え方は次の図のようにまとめることができます。この図は、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)と呼ばれる考え方で、縦軸が「市場成長率」、横軸が「市場占有率」になります。成長率が低く、占有率が高い成熟期の事業を中心とし、成長期、あるいは黎明期の事業に投資を行うという考え方です。
成熟期事業を持っているという点において金利的な負担が少なく、他事業で利益の補填ができるという点において他社よりも比較的優位に事業拡大を進めることができます。
このビジネスモデルを採用している代表的な企業は富士フイルムです。
富士フイルムは日本の精密化学メーカーです。カメラ、デジタルカメラ、一般・エックス線写真、映画用フィルムから印画紙(プリント)、現像装置などに至る写真システム一式、複写機などのOA機器のほか、ディスプレイ用フィルム部材、刷版、印刷システム、医薬品、医療機器、化粧品、健康食品や高機能化学品などを製造・販売しています。
同社では、フィルム事業が成熟期になる中、成長期事業であるコピー機に投資を行い、さらには黎明期事業であるヘルスケアに積極的に投資を行いました。結果、フィルム事業の競合であるコダックが倒産した一方で、富士フイルムはバランスの良い事業投資で収益を拡大するといった結果につながっています。
実際に売上構成比を見ても、2001年度においてはフィルム事業が30%を占めていましたが、2019年度にはフィルム事業は半分になり、一方でヘルスケア事業が2倍になっており、売上構成比が大きく変わっています。
では、ここからは実際にアズマハウスについて詳しく見ていきます。下の図は、アズマハウスの事業ポートフォリオを示したものです。
同社は元々は戸建て販売を中心としていましたが、成長期事業として不動産賃貸に展開しています。さらには、インバウンドを見据えてホテル事業も展開しており、現在の利益ベースでは、戸建て事業と同じ程度まで賃貸事業の収益が占めています。
まさに富士フイルムのように、成熟期の事業の資金を不動産賃貸事業やホテル事業に分配する、といった取り組みに成功しているのです。
アズマハウスのビジネスモデルとは?
ここからはアズマハウスのビジネスモデルをさらに詳しく見ていきましょう。
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