今回は、ビジネスモデルのIT化によりPERを50倍まで高め、時価総額成長率が日本2位になった熊本県のL社について見ていきます。まず、L社の特徴をお伝えします。注文住宅事業を熊本県で展開する住宅会社で、インターネットを中心としたビジネスモデルを評価され、マザーズに上場を果たしました。株価を意識した企業価値を高める経営手法は、業界内外から高い評価を得ています。近年は、利益率も3%水準まで高まっており、非常に勢いのある会社です。

 

 

 

では本日の目次をお示しいたします。

 

 

当初の課題

 

下図はL社が抱えていた課題と目標、ギャップを埋めるための対策を記した図です。順に説明します。

 

 

 

L社は当初、上場していることもあり、PERを高めたいと考えていました。しかしながら、住宅不動産業界は斜陽産業であり、PERが低く企業価値がつきにくい傾向にあります。そこでL社はPERを上げるために「IT領域を拡大することで最大化させる」という方針を打ち出しました。

 

ここでまず、PERについて説明します。PERとは「投資家が判断するその企業の価値」であり、PERが高ければ、「株を買う価値あり」と判断されます。例えば、PERが50倍の会社と10倍の会社であれば、PERが50倍の会社の株は買う価値がある一方で、PERが10倍の会社は、PER50倍の会社と比較すると買う価値がないと判断されてしまいます。

 

 

 

下の図をご覧ください。一般的に、日本の上場企業のPERは15倍と言われています。その上で、例えばIT業界のPERは平均で50倍です。業界に伸びしろがあり、価値がつきやすいということですね。

 

 

一方で、建設業界で見ると、PERは10倍前後と平均よりも低い傾向にあります。これは残念ながら、業界に伸びしろがなく、価値がつきにくいと言えます。また、違う側面で言えば、建設業界は多くの会社が「店舗ビジネス」として限定されたエリアで活動しています。そのため、事業として拡大しないと判断されるので必然的に株価がつきにくいのです。

 

このような中で、L社は下の図のようにPERが約46倍と、IT業界と近い水準まで高まっています。

 

 

L社の取り組み

 

では、L社ではどのようにしてこのような数値の伸びを実現したのでしょうか。まずポイントとしては大きく分けて三つあります。一つ目が面を押さえる集客モデルの構築、二つ目が販売構造のIT化、三つ目がYouTubeの積極活用です。順に説明していきます。

 

 

面を押さえる集客モデルの構築

一つ目のポイントを説明する上で、L社のビジネスモデルであるマルチエントランスモデルを説明する必要があります。下の図を御覧ください。

 

 

従来のビジネスモデルの多くは、広いカテゴリーにそれぞれのアプローチを行いますが、L社のビジネスモデルは、カテゴリーごとに専門化された見せ方を行い、それぞれのカテゴリーに合わせたマーケティングを行います。その結果、専門性と中立性を重視する顧客は特化したアプローチを選ぶようになるのです。

 

他業界でこのビジネスモデルを採用している会社が「俺の株式会社」です。

 

 

 

「俺の株式会社」は、ミシュランクラスの料理長が料理を提供する事業を行っています。料理のレベルが高いゆえに単価が高くなると思われがちですが、立食形式を徹底することで回転率を上げ、低単価が可能になるビジネスモデルを展開しています。さまざまなジャンルに特化した店舗を展開している点が特徴的です。

 

このように、それぞれを専門化することによって、カテゴリーキラーになるという考え方がこのビジネスモデルの特徴です。実際に、L社の集客構造を見てみましょう。

 

 

 

L社では、下の図のようにさまざまなカテゴリーにおいて専門サイトを保有しています。そして、それぞれのコンセプトに関心があるユーザーを集客し、そのまま自社のサイトから反響につなげています。このような取り組みを行うことで、面を広く押さえながら集客するということが可能になります。

 

また、先ほど「店舗ビジネスは地理的制約により拡大に限界があるため株価がつきにくい」と述べましたが、こちらのモデルはウェブサイトが店舗がわりであり、地理的制約がないため拡大への期待値が高まりやすく、結果としてPERが上がりやすいという側面があります。

 

販売構造のIT化

二つ目が、販売構造のIT化です。端的に言えば、先ほどの集客構造で獲得した反響に対して、L社はITを駆使して来場につなげています。では、具体的にどのようにアプローチをしているのでしょうか。内容を見ていく前に、まず反響の定義から整理しましょう。下の図をご覧ください。

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