編集を終えて
現在ノウフルの12月号に向けた執筆をしているが、主要な住宅企業11社の受注金額速報値(対前年同月比)が発表された。結果、マイナス企業数がプラス企業数を上回った。子育て世帯の住宅取得を支援する、こどもみらい住宅支援事業の訴求に力を入れるものの、受注環境の好転までには至っていない。
実際にノウフル経由でのご相談を毎月20社以上いただき、状況などをお伺いしているが、ほとんどの建築会社が昨年の10月あたりから集客が激減し、回復していない。このような状況下で各建築会社がどのような戦略を設定すべきなのか。今回、編集の結びとして残された紙面で適切な戦略構築にお役立ちできる考察を提唱し、本号の締めくくりとしたい。
なお、私は延べ15年ほど建築業界に携わり、コンサルタントとして100社以上を支援し、3000人以上の経営者と対峙をしてきた経験と見解があるものの、考察に関してはあくまで個人の意見であることは事前にご了承いただきたい。
4P戦略ついて
前回の編集後記で、マーケターという言葉の本当の意味について紹介した。
なお、マーケターについて詳しい記事は下記に記載しましたので、併せてご覧ください。
今回は、このマーケターの役割について、事業承継の観点から考察していく。まず下の図をご覧いただきたい。この図は、中小企業庁による、経営者の年代別に見た後継者の選定状況に関するアンケート結果である。
50代の経営者においては、25%しか後継者の準備ができておらず、60代においては47・5%、70代においては59%という結果となっている。また、後継者が決まっている場合においては子息などが対象になるケースが多いが、その子息が事業を継ぐに値する能力を持っているかどうかは別の話だ。
では、後継者を選定あるいは育成する上で、どのような要素が必要なのだろうか。まず、現在の住宅業界を取り巻く環境を見ていただきたい。下の図は、2040年までの住宅着工数の予測を示したものである。
この市場データを見れば、今後大幅に着工数が減っていくことが一目瞭然であろう。この背景としては、下の図にあるように、人口の減少が挙げられる。
現在問題となっている原価の高騰などは一時的なものでしかなく、この人口減少という外部環境が、今後の住宅業界に大きな影響を与え続けるであろう。つまり、業界課題として、今後の集客自体が難しくなることが予測できる。
したがって、次の図にあるように、今後、事業を承継する人間に求められるのは、営業力ではなく集客力なのである。
では、集客力とは何か。前回も触れたが、集客力とは、マーケティングの4Pの観点で、製品や価格戦略、ルート戦略などもしっかりマネジメントができる能力のことを言う。
集客に直結すると言われる広告戦略やホームページ、あるいはインスタグラムなどの領域しか見ていない場合は単なるプロモーターであって、事業を承継する能力はないに等しい。前号の内容を踏まえて言えば、マーケターこそが、事業を承継する能力を有する人間なのである。
実は、このマーケター領域においては、責任者としての肩書きも存在する。それがCMOである。CMOとは下の図にあるように、チーフ・マーケティング・オフィサーを指し、マーケティングにおける責任者を意味する。このマーケティング責任者が少ないということが、実は日本における大きな課題なのである。
下の図は、日本とアメリカのマーケティング責任者の数を比較したものである。アメリカでは62%の会社でマーケティング責任者がいるにもかかわらず、日本には0・3%しかいない。このような状況自体が日本の衰退を招いているのではないか。
特に、住宅業界においてマーケティング責任者がほとんど存在しないのはなぜだろう。それは、下の図に示している通りである。
営業部門においては、経営者が元々営業出身というケースが多く、その上でのマネジメント体制が出来上がっている。設計・工務部門においても、経営者がある程度の経験を積み上げてきている領域であるため、マネジメントができている。しかしながら、集客の領域においては、経営者が経験値を積みきれていない領域であるため、マネジメント体制が出来上がっていないと言える。
20年前のように、チラシを打てば反響が来る時代はよかったものの、IT革命によって集客がデジタル化したことで、経営者の把握できる範囲を超えてしまったことが、この20年間のツケとして起こっているのである。
つまり、今後の事業承継の領域は、経営者にとっても、あるいは事業を受け継ぐ側の人間にとっても、営業力よりも集客力が求められるため、単なるプロモーターではなくマーケターとしての能力育成と開発が重要になってくるのである。
最後に
以上、今回は、住宅業界の重要テーマとして「マーケター」の役割について見てきた。
住宅業界においては、事業承継や企業の部門体制の問題から、近年必要とされる集客力に特化した人材を育てることに適応できない状況があり、多くの会社がその課題に悩んでいる。このような状況下で、マーケティング領域と集客について今一度見直し、正しい戦略を立てていくことが重要だ。一人でも多くの建築業界従事者の方々にとって、ノウフルが貴重な情報源になればそれ以上のことはない。
引用