今回は前号に続き、商品戦略におけるソフト戦略のポイントについて見ていきたい。
なお、今回の内容は前後とのつながりが非常に密接であるため、必ず前号を振り返った上で読み進めていただきたい。
では、本日の目次を見ていこう。
住宅業界の商品価値
まず、前回もお伝えしたが、住宅の商品価値は下の図にある通り、価格を分母に置き、分子はハード、ソフト、ブランドで構成される。
ハードについては物質的なものであり、ソフトについては精神的なものである。
住宅業界におけるハードとは建物と土地であるが、ソフトについては、下の図にあるような、家族の絆が深まる・安全・快適といった要素を指す。
このようなソフトの訴求は非常に重要であるものの、住宅会社によってはうまく市場に表現できていないケースが見られる。
ソフト戦略のポイント
①市場のニーズを見ているか
市場ニーズについて具体的な説明をする前に、下の図をご覧いただきたい。
プロダクトアウトとマーケットインという言葉をご存じだろうか。プロダクトアウトは商品主導といったことを指しており、良いものを作れば売れるという信仰である。モノ不足の時代はこれで良かったものの、モノ余りの時代においては顧客が求めているものを作るマーケットインが求められている。
このような中で、自社の商圏に合ったソフト戦略を構築できているかが重要になる。例えば下の図は、長野県の松本市で調査を行ったデータであるが、最もニーズのあるソフト要素は「快適性」であり、次に「安全」、その次に「家族の団らん」という結果になった。
これは多くの読者が想定しうる回答と近いと言えるが、下の図はどうだろうか。この図は北海道の函館市のデータである。ここでは一番に「リビングが広い」がきて、「快適」「安全」と続いた。
さらに下の図は、山梨県の甲府市のデータである。こちらでは、一番に「耐震性」がきて、「会社・商品の好感度が高い」「会社・商品の知名度が高い」が続くといった結果となった。
このように、エリアによって打ち出すべきソフト戦略が違うのである。例えば甲府市で展開している場合、プロダクトアウト型で快適性などを訴求していると、商品戦略としては「売れない」「集まらない」という大きな失敗を犯すことであろう。これほど市場調査は重要なのである。自社の商品展開がプロダクトアウトになっていないか、今一度振り返っていただきたい。
②ドリル訴求をしていないか?
次に、ドリル訴求をしていないか、である。ドリル訴求とは何であろうか。まず、住宅購入において顧客が買いたいものは家ではなくて豊かな暮らしである点を理解する必要がある。
その上で、下の図はあるマーケティング学者の言葉であるが、「人々は4分の1インチのドリルが欲しいのではなく、4分の1インチの穴である」という考え方が重要である。
例えば、栄養ドリンクのCMに「タウリン1000ミリグラム配合」という打ち出しがあるが、これは一つの悪例である。まずタウリンが何なのかを伝えなければ顧客には届かないのである。中にいれば当たり前の言葉も、にとっては馴染みがないのである。
つまり、下の図のように、顧客が豊かな生活を目的として求めているにもかかわらず、その手段であるC値、UA値などの性能の話をしていては、顧客と心を通わせることなど全くできないのである。
下の図は、とあるエリアで行った住宅購入検討客向けの市場調査であるが、ZEH・UA値・C値といった言葉を多くの住宅検討客は「知らない」と答えている。
そのような中で、これらのドリル訴求をホームページやチラシなどで行っていないか、今一度見直す必要がある。では、どのように訴求すればよいのだろうか。下の図は、商品とメリットという考え方を整理したものである。
一般的に、商品を主語に置くとドリル訴求になってしまう。UA値やC値最低基準などは顧客に伝わらないドリル型の提案である一方で、顧客を主語に置いた場合だと、「夏は涼しくて冬は暖かい」あるいは「花粉に困らない」といった表現になる。
これは、まさにドリルに対する「ホール(穴)訴求」と言えるのだが、このホール訴求こそが顧客に伝わりやすい表現なのである。特に、最近では、高気密・高断熱を訴求しているケースが増えているが、その場合は「この住宅は高気密・高断熱である」といった訴求ではなく、顧客にとって「一定の温度や快適な温度を実現できる」あるいは「健康を実現できる」「省エネを実現できる」といった訴求を行うべきなのである。
また、マーケティングは「選択と集中」が重要であるため、これら三つすべてを訴求するというよりも、どれか一つに絞ってUSP(強み)として表現していくのが適切であろう。
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