今回は離職率を上げないための評価制度作りの設計編について触れていきます。
では本日の目次をお示しいたします。
評価制度とは?
まず、そもそも評価制度とは何かについて押さえましょう。住宅業界におけるビジネスモデルは下の図の通りです。企業戦略の中に、事業戦略・組織戦略・財務戦略があり、評価制度は、組織戦略における採用・育成・配置・評価・活性化の要素の一つです。
組織戦略に関しては人の流れに沿って定義づけしていますので、人を採用してから育成し、配置・評価し、活性化する、と時系列の流れになっています。では、評価に関してどのような考え方を持つべきなのでしょうか。
下の図は、マズローという学者が定義づけた、人間の欲求を5段階に示したものです。図に記載している通り、金銭報酬は昭和時代に比較的よく活用された報酬です。戦後から昭和の時代において、労働者を動機づける報酬は、最低限の生活の維持という観点で安全面や衛生面が担保できる最低限のサラリーでした。そして平成になり、貢献報酬や親和報酬、つまり組織に属し、貢献するということ自体が報酬の主体になりました。
しかしながら、平成の後半から、承認報酬と言われる認められ評価されるということ自体に報酬が変遷しています。これは、SNSの「いいね」などにも見られる考え方だと言えます。
別の観点でまとめると、昭和初期から平成前半において、不満を解消するという観点は衛生要因(不満足要因)と言われ、賃金や時給、職場環境などがそれにあたりました。しかしながら平成の後半からは、適正な給料や処遇は必要ですが、動機づけには別の要因が必要となります。意欲向上に関しては、動機づけ要因(満足要因)と言われていますが、先ほどお伝えしたような、認められる、あるいは評価されるなどの考え方を組織戦略として設計することを指します。
そして、報酬に関しては、金銭報酬と意味報酬に分かれます。金銭報酬とは評価をそのまま金銭として与えるものであり、意味報酬とは金銭ではなく成長や感謝などの形で与える報酬です。評価制度においては、金銭報酬だけではなく、意味報酬における承認報酬と言われるものも意識して設計しなければなりません。
これらを図にすると下記になります。評価制度に関しては金銭報酬と意味報酬があり、金銭報酬の中に昇給と昇格があります。
昇給に関しては月例賃金、歩合、賞与と三つに分かれますが、それぞれについて適切に制度づくりをしなければなりません。今回は、その前提の中でどのように評価制度をつくっていくのかについて、設計という観点から論じていきます。
なお、設計以降の運用と改善については下記記事を参照ください。
評価制度の「設計」について
まず、評価制度を設計する上では五つのポイントがあります。順番にお伝えします。
一つ目が、長期雇用を前提に設計することです。下の図にあるように、長期雇用を前提とした際に基本給自体が全く上がらなければ、社員のモチベーションが下がり、離職率が上がってしまいます。ですから、各等級に応じて下限と上限を設け、その中で調整をすることが非常に重要です。
二つ目は、中途採用において調整給を取り入れることです。よく見られるケースとして、中途採用で入ってきたメンバーが前職の給与を元に高い水準を維持し、不公平な給与ギャップが生まれることがあります。こういった場合は、調整給で対応することが重要です。調整給自体は1年で消滅しますので、例えば基本給が24万円の2等級だとすれば、1年後は3等級として28万円になります。金額自体は変わらないものの、等級が上がったことによって基本給自体も上がるため、合理的な体制だと言えます。
三つ目が、ビジネスモデルに合った評価基準を前提とすることです。例えば、下の図はA社における商品のコスト構造を示しています。A社では原価が高く、広告宣伝費も他社と比較して高い水準で投資をしているため、人件費自体を抑えています。このような考え方は、他の業界でも、マクドナルドなどローコストオペレーションと言われるビジネスモデルで採用されていますが、住宅業界においても自社の商品原価や広告宣伝費などと照らし合わせて適切な人件費、労働分配率を設定する必要があります。
なお、こちらの企業のビジネスモデルについては下記の記事で詳しく触れていますのでご興味があれば下記より記事を御覧ください。
また、下の図は注文住宅8社の売り上げにおける人件費率ですが、図の通り、4〜18%というギャップの中で、平均値が10・5%となっており、売り上げにおける人件費率は10〜13%が適正だと言えます。
そして四つ目は、営業以外も評価対象にするということです。次の図はある住宅会社の事例ですが、例えば設計部門においても、意匠図の作成や確認申請・エコポイント申請・構造作成・図面一式など、さまざまな要素で歩合を設定することができます。このように営業以外の部門でも歩合設定をすることによって、部門間の不公平感をなくしていくということが非常に重要になります。
最後の五つ目は、さまざまな観点で評価を行うということです。棟数に応じた評価制度のみに成り下がってしまうと、数を達成すればそれでいいといった考え方になってしまいます。そうならないためにも、さまざまな評価の形を想定します。順に見ていきましょう。
①ルート別の評価
下の図はルート別の評価です。自己発掘や自己OB紹介などはルート別係数として100%にしています。退職社員・OB客・他部門社員からの紹介や不動産会社からの紹介などに関しては、係数を低く設定することによって、案件の質に応じて評価するといった考え方です。
②育成別の評価
次に、育成別の評価です。単なる個人プレーヤーに成り下がってしまわないように、例えばマネージャーについては、部下の達成レベルも逆算して歩合設定をすることが重要です。単に部下の棟数だけを評価するわけではなく、例えば次の図のように、部下の等級という観点も踏まえて評価を行う考え方が大切です。
③粗利別の評価
続いて、粗利別の評価です。下の図は、営業・工務・ICそれぞれの歩合としての評価を示していますが、粗利率が17%を下回った場合には支給しない、あるいは27%の粗利率という観点から係数を評価するといった考え方です。
④店舗難易度ごとの評価
最後に、店舗難易度ごとの評価です。当然ながら、本社に近い店舗に関しては知名度が高い分、店舗評価が変わってきます。こういった観点においてもそれぞれの係数を設定し、難易度という観点を加味した上で評価することが重要です。
本日のまとめ
改めて、本日のまとめをお示しいたします。
評価制度においては、金銭報酬だけではなく、意味報酬も意識して設計する。
評価制度は長期雇用を前提に設計する。
給与は不公平な給与ギャップが生まれないように設計する
評価基準はビジネスモデルに合ったものを前提とする
評価は、それぞれの職種や店舗条件に合った様々な観点で設計する
以上、今回は評価制度における制度設計についてお伝えしました。このような考え方で制度設計を行っていくことが、今後の棟数確保において重要になりますので、しっかりと体制づくりを行っていきましょう。