多くの住宅関連企業(工務店)で改めて戦略を見直したい、あるいは本格的に中期経営計画を作りたいといったお考えをお持ちの方は多いのではないでしょうか。一方で、経営学書籍に記されている戦略論は理解が非常に難しく、苦慮されているケースも多いと思います。

 

こちらはある経営者の悩みです。

 

そろそろうちも中期経営計画のようなものを作る必要があるかもしれないな。

でもそもそも何から始めればいいんだろう。

戦略って言われても小難しくてよく分からないし。

3CとかSWOTってよく聞くけど一体何?

それを理解したところで売上が伸びるのかな?

一体戦略って何だ?

 

このように戦略の基礎からそもそも理解がしたいものの、どうすればいいか分からないといったケースは多いと思います。

 

今回はこのようなケースに沿ってどのように戦略について考えればいいのかについて触れてみたいと思います。

 

では本日の目次をお示しいたします。

 

 

歴史から見る戦略の考え方

 

まず具体的な戦略論に入る前に戦略とは何か、について触れてみたいと思います。戦略とは下の図にあるように「目的達成に向けて資源を総合的に運用する為の技術・理論」になります。ある目的を達成する上で、ヒト・モノ・カネといった資源をどのように運用するのかを説いた技術や理論です。

 

 

 

戦略を理解する上でまず戦略論の歴史を振り返る必要があります。ここからは戦略の歴史について触れてみたいと思います。

 

戦略の歴史は今からさかのぼること200年以上前、1800年代から始まりました。当時は産業革命真っ盛りの時代で、工場はフル稼働ではあるものの生産性がなかなか上がらない、といった悩みを経営者は抱えていました。

 

 

 

そこで、テイラーというコンサルタントが「ロボットのように管理しましょう」と説いたんですね。例えば工場を歩くときは、ストップウォッチを持って歩数と時間を管理をするといったあたかもロボットのように管理をすることで生産性を上げるといった考え方が浸透しました。これを科学的管理論と言い、まさに経営学が誕生した瞬間です。

 

しかし1900年前半になると、逆に管理をし過ぎてボイコットされるケースが相次ぎました。そこで、いわゆる戦略流派が二つに分岐されます。一つは「人間関係を重視しましょう」という考え方です。

 

 

 

コンサルタントであるメイヨー、マズローが説いたもので、人はロボットのように管理されることを好まない為、労働者の人間関係を中心とした労働環境を重視するという考え方です。この流派を人間関係論と呼びます。また、もう一つの戦略流派は「工場だけではなく、企業を見ましょう」といった考え方です。

 

当時は、企業経営はすなわち工場運営でしかありませんでした。しかし、企業管理には計画や調整、組織など様々な要素があると説いたのがファイヨールです。中でも組織においてマネジメントの重要性を説いたドラッカーが有名です。マネジメントという概念がなかった当時は非常に画期的的でした。

 

そして1900年半ばになると、そもそも世界恐慌で工場どころか、各企業は存続が危うい事態に陥りました。ここで大きく2つの戦略流派が誕生します。

 

 

 

一つはポジショニング派と呼ばれるもので、「勝てる市場を探しましょう」と説いた流派になります。この考えはBCGと呼ばれるコンサルティング会社に支持されました。一方がケイパビリティ派と呼ばれるもので「勝てる企業になりましょう」と説いた流派です。市場を見つけるより企業としての戦闘力を上げることが大事と説いたんですね。この考えはマッキンゼーと呼ばれるコンサルティング会社に支持されました。

 

なお、ポジショニング派には有名な戦略論があります。それが「ポジショニング分析」「SWOT分析」「ファイブフォース分析」です。

 

ポジショニング分析は、「市場におけるポジションを再定義し、収益力を高める」分析手法です。

 

 

SWOT分析は「自社の取り巻く外部環境(機会・脅威)と内部環境(強み・弱み)の観点で収益力を高める」分析手法です。

 

 

ファイブフォース分析は「自社を取り巻く5つの脅威に対策を講じることで収益力を高める」分析手法です。

 

 

その後1900年後半になるとグローバル化が進み、欧米の企業は日本企業の躍進に苦しみます。結果、市場が飽和状態になりいわば停滞状態となりました。そこで、新たに2つの流派が生まれます。

 

 

 

先ほどのポジショニング派とケイパビリティ派を認めつつ「状況に応じて組み合わせましょう」と説くコンフィギュレーション派です。さらには「革新的な事業を起こしましょう」と説くノベーション派が生まれることになります。

 

なお、コンフィギュレーション派で有名な理論が「ブルーオーシャン戦略」です。自社の優位性を強化しつつ(ケイパビリティ)市場を見つける(ポジショニング)というまさに抱き合わせの戦略として一時期評判になりました。

 

 

そして2000年代になるとIT革命がビジネスマーケットを大きく変革します。ITの台頭により過去の成功パターンが通用しなくなるのです。

 

 

ここで、コンサルタントは過去の成功モデルが通用しない為「個社ごとに成功パターンを作りましょう」と説くようになりました。この個社ごとのパターンをビジネスモデルと呼びます。ビジネスモデルとは成功法則を多くの事例から導き出すのではなく、個社ごとの構成を重視し、それぞれを成功モデルとして認めるという当時では画期的な発想でした。

 

この流れをまとめると下の図になります。このように戦略は、1800年代から生まれ、今に至るまで様々な考え方で派生を繰り返してきました。この源流には最初にお伝えした「あるべき理想にたどり着く為のヒト・モノ・カネの組み合わせ」であることには変わりありません。

 

 

 

ビジネスモデルの考え方

 

ではここからは最後に触れた「ビジネスモデル」とは何か、について触れていきます。ビジネスモデルは近年多くの書籍が発刊され、注目を集めております。様々な戦略理論が通用しなくなった現代において、個社ごとに勝ちパターンを整理し、成功モデルとして評価するという考え方は今の時代背景にふさわしい考え方です。

 

 

ビジネスモデルと戦略の位置づけが下の図になります。当然ながら戦略は限られた成功法則に沿ったケースのみを対象とする為、全ての優秀企業を個別のモデルケースとしてまとめるビジネスモデルと比較すると一部の成功事例でしかないのです。

 

 

では、ビジネスモデルに必要な要素とは何でしょうか。結論から言えば、下の図のように、事業・組織・財務、そしてそれらの一貫性が重要だと言われております。事業とは、集客・営業など売上を上げる為の仕組みそのものを指します。

 

 

組織は事業を維持する為に必要な採用・教育・評価などの仕組みそのものを指します。そして財務は、事業を維持する為にPL・BSを軸とした仕組みそのものを指します。企業の資源に当てはめれば事業はモノ、組織はヒト、財務はカネと言えます。この事業・組織・財務をさらに分解すると下の図のようになります。

 

 

まず事業には、ターゲット・販売方法・商品があります。端的に言えば、「誰に・何を・どのように売るのか」をまとめ上げたものになります。そして組織戦略は、組織体制・評価制度・教育体制・採用体制・組織風土などの組織運営において重要な要素が対象になります。

 

そして財務戦略は、PL・BSなどお金を管理する要素によって構成されます。これらを一貫性を持って構築することがいわゆる企業戦略になります。また、このビジネスモデルは外部環境との整合性も押さえることが重要です。内部環境である「事業」「組織」「財務」と外部環境が一貫性を持って初めて正しいビジネスモデルと言えます。

 

住宅業界においては事業戦略における販売方法が非常に複雑です。中でも集客と商品においては補足が必要なのでここで深堀りしてみたいと思います。

 

まず集客について触れてみたいと思います。集客構造には大きく「媒体」「販売ルート」「企画」が存在します。媒体は販売ルートにどのような手法で来場・アポにつなげるか、を指します。販売ルートは展示場や見学会・店舗など見込み客と対面接点を持つ場所を指します。また、企画は販売ルートに呼び込む為にどのような企画を行うかを指します。

 

 

次に商品です。一般的な「商品」は物質的な価値を指します。しかし近年では、精神的な価値も一つの商品として捉えることが出来ます。

 

 

例えばスターバックスは、コーヒー従来の商品ですが、一方で彼らが提供しているものはコーヒーだけではなく、空間も一つの商品として提供しています。コーヒーを物質的価値、空間を精神的価値と定義した場合、「商品」という表現では少し意味合いがずれてしまうので正確な表現として「提供価値」を使うケースが多いです。

 

事例から見るビジネスモデルの考え方

 

では、ここからは実際にビジネスモデルの事例を見ていきたいと思います。ここではコピー機市場の黎明期である1900年代初期が舞台となります。当時ゼロックスはある程度シェアを拡大していたもののA社の存在感が強く、商品での差別化もはや困難でシェアが伸びないと悩んでいました。

 

 

そこで彼らは、従来のビジネスモデルではなく、新たなビジネスモデルを作ることに成功しました。従来コピー機を高額で販売し、その利益で収益を上げるというシンプルなビジネスモデルでした。この手法ではシェアを拡大出来ないと考えたゼロックスはあるビジネスモデルを考えます。それがコピー機自体は月額の低額販売にし、コピー機を使用した枚数で従量課金で収益を上げる手法を導入したのです。

 

 

当時高額であり多くの企業が敬遠していたコピー機ですが、月額の低額販売によって多くの企業が導入し、結果圧倒的シェアを実現したのです。今では一般的に使われている従量課金型のビジネスモデルですが、当時は非常に珍しかったんですね。ゼロックスのビジネスモデルを先程の内部環境と外部環境に照らし合わせると以下の図のようになります。

 

ビジネスモデルのキー コピー機を月額固定にし、定期的なトナー代によって収益を確保する
内部環境 顧客 全国のコピー機を検討している法人企業を対象とする。中でも中小・中堅企業を中心に展開している。
販売戦略 ブランド力を武器にテレアポやFAXの案内によりアポイントを取得する。価格メリットなどを武器に営業提案を行う。
提供価値 コピー機自体は低額で提供し、印刷ごとの課金で収益化することで圧倒的な初期投資面での差別化を行う。
組織戦略 定期的な訪問を前提とする為、事業部を30分以内の営業所ごとに分け、効率的な組織活動を展開する。
財務戦略 初期コストは高いが最終的にストック収益が積み上がる。比較的資本金が多い為、無理なく体制構築が可能である。
外部環境 コピー機はコストが大幅に掛かる為、中小企業においては導入ハードルが高い。

 

 

 

先程一貫性が重要であると説明いたしましたが、このビジネスモデルで押さえるべきはそれぞれの要素が一貫性を持ってフィットしている点です。順番に説明して参ります。

 

外部環境(顧客)と提供価値がフィットしている

外部環境を踏まえると市場である中小企業マーケットにおいては大手企業マーケットと比較し、初期導入費用における
ハードルが高いと考えられます。このビジネスモデルでは初期費用ハードルを下げている点において外部環境と提供価値がフィットしていると言えます。

 

組織戦略と販売戦略がフィットしている

印刷枚数での収益を前提としている為、メンテナンスサポートが収益の要となる。その上で組織体制を30分圏内のエリアで事業部分けし、効率的なサポート体制を行っている点を踏まえると、組織特性と販売方法がフィットしていると言えます。

 

財務戦略と提供価値がフィットしている

初期費用を安価にしている為、企業側としては初期コストが大きく発生するビジネスモデルです。一方でゼロックスの資本力を踏まえると投資余力は高く、資本力と提供価値がフィットしていると言えます。

 

このように戦略はビジネスモデルとして整理し、内部環境(事業・組織・財務)と外部環境を一貫性を持って最適化(フィット)させることが重要です。

 

今後中期経営計画を策定する際はこの観点を押さえて他社のビジネスモデルを参考に設計すると良いでしょう。

 

本日のまとめ

 

改めて、本日のまとめをお示しいたします。

checkbox経営戦略とは目標達成に向けて資源を総合的に運用する為の技術・理論である

checkbox経営戦略は世の中の課題に沿って様々な流派に分岐しつつ発展した

checkbox近年ではビジネスモデルという個社に沿った戦略論が支持されている

checkboxビジネスモデルは事業・組織・財務の一貫性が前提として必要になる

 

以上、今回は経営学の歴史から戦略論を、そして戦略論からビジネスモデルという考え方について説明いたしました。世の中には様々な戦略論がありますが、まずこちらの基礎を押さえることで自社の戦略を見直す参考にしてください。

 

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